アトピー性皮膚炎治療マニュアル

 その他の薬剤

ステロイド外用薬のほかに、次のような薬が使われることがあります。

 タクロリムス外用薬

タクロリムス外用薬

タクロリムス軟こう(商品名=プロトピック軟こう)は日本で開発された薬です。ヘルパーT細胞および肥満細胞に働きかけ、免疫を抑制することでアレルギー反応を抑えようとする作用があります。効きめはステロイド外用薬のⅢと同程度とされています。ステロイド外用薬のように毛細血管を拡張させたり、皮膚を薄くするといった副作用がないのが大きな特徴です。タクロリムス軟こうの分子量はステロイド外用薬に比べて二倍以上と大きいのが特徴です。バリアが破壊された皮膚では、吸収がよく、効果が期待できる一方、正常を皮膚では吸収されにくいため、長期的に使用しても比較的安心を薬といえるでしょう。このため、とくにステロイド外用薬の副作用が出やすい顔や首の治療に対して、ひとつの選択肢ができたといえます。長い間ステロイド薬を使って副作用が出ている人、ステロイド薬が効きにくい人、ステロイド薬を使いたくない人の治療としても利用できます。強い皮膚炎では、まず強めのステロイド外用薬を短期間使って症状をある程度抑えてから、副作用の出にくいタクロリムスに切り換えるというように、治療方法のバリエーションも増えました。また、使用中は、長時間日光を浴びるのを避ける必要がありますが、通常の生活で浴びる程度であれば問題ありません。副作用には「にきびなどができやすくなる」などがあります。

 内服薬など

かゆみを軽減するため、「抗ヒスタミン薬」などの内服薬がよく使われます。また、重症の場合には、免疫抑制薬の「シクロスポリン製剤(内服薬)」が使われたり、医療機器により紫外線を照射する「紫外線療法」が行われることがあります。

 感染症のおそれがあるときに使う薬

抗生物質・抗菌薬
アトピー性皮膚炎の皮膚では、細菌やカビがくっつきやすく、ひっかいたりすることも原因となって感染症を引き起こすことがあります。ジクジクした湿疹では、抗生物質を配合したステロイド外用薬を使うことがあります。湿疹がつぶれたり、湿疹のできている部位によっては、ステロイド外用薬が症状を悪化させることがあります。この場合は、原因物質に応じて抗生物質や抗菌薬を塗ったり、内服薬を飲みます。

 保湿薬などの保護薬

炎症がおさまると治療が終わるのは、一般の皮膚炎の場合です。アトピー性皮膚炎では、炎症がおさまってから、正念場の治療がはじまるといっても過言ではありません。乾燥しがちな皮膚はアトピー性皮膚炎の予備群です。よくなった状態を保ち、バリア機能の低下した皮膚を保護するには、外部から足りない水分などを補ったり、乾燥から皮膚を守る必要があります。保護薬類はこの日的で使います。医師の処方薬がいくつかありますが、市販薬でも、同じような効果のあるものが販売されています。

 薬を組み合わせて治療を進める

治療にあたっては、以上の薬を症状に応じて組み合わせていくことになります。患者さんは、どの薬をどの部位に、どのくらい、何回使うのか、また、どんな症状のときにどの薬を加えるのか、医師の説明をしっかり聞き、指示どおりに使うことが必要です。とくに、はじめて使うステロイド外用薬は、使い方を実地に指導してもらうのがよいでしょう。では、顔に赤い湿疹があり、からだにもかなり強い湿疹が点在している場合を例に、一般的な治療法のあらましを述べてみましょう。まず、朝起きて洗顔をしたら、全体に保湿薬を塗ります。顔には弱いステロイド外用薬、肩や腕などの強い湿疹には、症状に応じたステロイド外用薬を弱い順にポイント的につけます。ステロイド外用薬は一日二回くらいからはじめて、症状がよくなってきたら、少しずつ回数を減らし、弱い薬に切り替えていきます。非ステロイド抗炎症薬、そして最終的には保護薬だけですむようにするのが治療の目標です。症状がよくなるまでは、必ず決められた日に診察を受けて症状をチェックし、薬を切り替えていきます。薬が変わったときには、塗り方などの指導を受けます。この間、カサカサした部分には、洗顔後や水仕事のあと、入浴後などに保湿薬などをつけて皮膚のバリア機能を補います。アトピー素因が強く、かゆい場合には、抗ヒスタミン作用のある抗アレルギー薬を併用するのが一般的です。

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