アトピー性皮膚炎治療マニュアル

 症状が収まっているときのスキンケア

 スキンケアを間違えると薬が効かなくなることも

スキンケア

なかには、「薬を塗っているときには症状がよくなるのに、すぐにぶり返してし まう」という人が少なくありません。症状が出ているときは医師の指示どおりにしっかり外用薬を塗りますが、症状がよくなると安心してしまい、スキンケアまで中止してはいないでしょうか。景さんによっては、かゆいところや湿疹が気になるところだけに強いステロイド誉塗って急場をしのぎ、ほかの手入れは何もしないという人もいます。こうした治療法はどちらも正解ではありません。前にも述べたようにアトピー性皮膚炎は、薬物療法とともに、スキンケアと生活面でのいろいろな注意が欠かせません。とくに、清潔と保温を中心とするスキンケアは、どんなときにも必要です。いくら強い薬を使っても、スキンケアができてないと症状はすぐにぶり返します。反対に正しいスキンケアができると、強い薬を使わなくともすむことが多くなります。スキンケアは単なる肌の手入れではなく生活療法と考えて、効果の出る方法を実践しましょう。

 方法がわからないときは医師や看護師に相談

もちろん、スキンケアは外用薬をつけているときから欠かせません。外用薬は炎症を治す だけであって、バリア機能が低下した皮膚を刺激から守るには、どうしても毎日のスキンケアが必要だからです。スキンケアをどのように行ったらよいのかわからないときは、医師に相談しましょう。私も、ときどき患者さんにどんなスキンケアをしているか、質問することがあります。なかにはずいぶん間違った方法で行っている人が少なくありません。もしかすると、これがアトピー性皮膚炎がよくならない原因かなと思われるような例もあります。患者さんは、相談をするときにふだん行っている方法を伝えるとよいでしょう。保湿薬などは実際に塗り方を教えてもらうと、薬の量、塗り方など、こまかい点が実地でわかります。スキンケアは治療の一環ですから遠慮する必要はありません。医師が時間をとれないときは、看護婦さんでも対応できると思います。

 指示を守って続けると、皮膚はだんだんしっとりしてくる

症状がよくなってくると、ステロイド外用薬や抗炎症外用薬をやめて、保湿薬だけですませられるようになりますが、こうなると安心して、ついルーズになりがちです。皮膚の保護も治療のひとつです。医師の指示を守り、一日三回といわれたら、必ず三回塗りましょう。大切なことは、湿疹がよくなっても悪くなっても関係なく、乾燥しているところには保湿薬を塗るということです。しっとりした状態が続けばかゆくなくなります。薬を塗るときには、必ず、その部分を洗って清潔にすることも欠かせません。指示を守って続けると、皮膚はだんだんとしっとりしてきます。そうしたら、一日二回、そして一回へと減らしていくこともできます。最終的には薬を使わなくてよくなり、乾燥ぎみのときだけ保湿薬などをつけるだけでよくなります。実際に患者さんのなかには、湿疹をしっかりコントロールして、清潔、保温のスキンケアを実践し、ステロイドに頼らないでつややかを肌を保っている人も少なくありません。こうした人は当然、通院の回数も少なくなっています。ただし、これは短期間では達成できません。一年、二年と根気よくつき合っていくことが必要です。症状が落ち着いてきたら、保湿薬などは薬局で売っているものに切り替えてもかまいません。ポイントは乾いた状態を放置しないことです。スキンケアの習慣が身につくと、自分の皮膚の少しの変化にも気づくようになります。アトピー性皮膚炎はよくなったり悪くなったりをくり返す病気ですが、こうして自己チェックができると、早めに治療を開始することができます。強い薬を使わないでよくなるケースも多くなります。

 清潔と保湿を心がけ、刺激を避ける

スキンケアの二本柱は清潔と保湿です。つけた異物は何でも必ず落とすことが基本。ところが、最近は清潔症候群というのでしょうか、洗いすぎて皮脂を取りすぎている傾向もみられます。たとえば、乾燥肌の場合、皮膚の汚れは、しっとりタイプの人よりもこびりつかず、落としやすいという特徴があります。汗をたくさんかいたときには石けんでさっと洗いますが、冬などで空気が乾燥していて粉っぽい汚れがついているときには、ぬるま湯だけでも十分に落ちます。そんなに神経質に石けんを使う必要はありません。とくに手のように一日何度も洗う部分は、洗うたびに石けんを使うとかえって皮膚をを取りすぎてしまいます。洗ったあとは、多少水分が残っている状態のところへ保温剤を乗せて、軽くスーッとのばします。

 ジクジクぎみのときは薬用石鹸を使うのもよい

夏に湿疹があると細菌感染をしやすく、ジクジクして痒みや痛みを感じることもあります。やさしくきれいに洗ってから、二次感染を防ぐために抗生物質の入った軟こうを塗って治します。症状がおさまったら、薬用石けんなどで洗って皮膚を清潔に保ちます。気温が高いときは、汗の刺激から皮膚を守ることが大切です。汗はこまめにシャワーで流すとよいでしょう。ただし、石けんを使うのは一日一回程度にします。外用薬はクリーム基剤のものやローションのほうがべとつきません。クリーム基剤やローションで刺激を感じる場合は、亜鉛華単軟こうなどを使ってもよいでしょう。

 石鹸たっぷり、ゴシゴシ洗いは皮膚のバリア機能を損なう

間違えやすいスキンケアの第一は洗顔です。男性に多いのは「毎日一回、石けんをたっぷりつけてゴシゴシ洗っています」というタイプです。これは正しい方法ではありません。まず「たっぷりの石鹸」は敏感な皮膚にとって大きな刺激となります。「ゴシゴシ洗う」と顔をまさつして、機械的刺激を与えることになります。必要な皮脂が汚れとともになくなり、さらに皮膚表面の凹凸を増やし、バリア機能をいっそう低くしてしまいます。汗をかきやすい時期ですと、「毎日一回」洗顔というのも正しくありません。汗は皮膚への刺激となります。石けんを使う必要はありませんが、汗や汚れはひんばんに洗い流しておくのが、アトピー性皮膚炎の皮膚を守る基本です。女性では一日何回も洗う人が少なくありません。しかし、そのつど、洗顔料でしっかり皮脂まで落とし、ローション、クリーム、美容液をつけマッサージをしたりすると、かえって皮膚への刺激が多くなります。汗をかいたらこまめに洗いますが、石けんは使いすぎずにそっと洗うのがよいのです。洗顔後は保温剤だけをつけます。

 試して状態が悪くなるようなら、医師の診察を

皮膚に触れるものは何でも刺激物です。スキンケアで使用する用品も、はじめて使うものは試供品や容量の小さなもので試してみましょう。上腕の内側など皮膚の薄い部分につけて一週間ほどようすを見て、変化がなければ大丈夫でしょう。途中でも、とりヒリと赤くなり、だんだん状態が悪くなるようなら、使用を中止してようすを見ます。悪化するようなら、診察を受けて早めに手当をしましょう。皮膚への刺激を少しでも少なくするためには、スキンケア用品もヘアケア用品も、よけいなものは、なるべく使わないのが理想です。「あれしてはダメ、これもしてはダメ」と考えるとネカティブなイメージが強くなりますが、こうしたものを使えば、必ず落とす手間かかかります。それがまた、かなりの刺激になります。使わなければ、いろいろな成分の刺激を受けることもなく、落とすための時間もいりません。このように前向きな姿勢で考えてみましょう。メークアップ化粧品、ヘアカラー用品、脱毛剤、香水なども、すべて皮膚に刺激を与えます。なるべく避るのが原則です。状態のよいときに試したいという場合には、アトピー性皮膚炎があることを伝えて、お店の人に相談してはいかがでしょう。美容院でのパーマやヘアカラーも必ずパッチテストをしてから行います。赤くなったりかぶれるようなら、やめる決断も必要です。

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