アトピー性皮膚炎治療マニュアル

 大人のアトピー・子供のアトピー

子供のアトピー

少し前までは、アトピー性皮膚炎は乳幼児期に始まって、思春期以降には自然に治っていく病気だと思われていました。ところが、実際にはアトピーの発症時期や経過はひと通りではなく、大人になってほとんど症状が出なくなったケースもあれば、よくなったり悪くなったりをくり返しながら長期間続くケース、あるいは小学生のころにいったんよくなったのに、大人になって再発してしまうケースなど、実にさまざまです。皮膚の乾燥状態は年齢によって変化していくため、アトピーの症状も皮膚の変化に合わせて変わっていくことが多いのです。赤ちゃんの皮膚はしっとりしていますが、子どもはカサカサしています。思春期になると皮膚が脂っぼくなり、ニキビができるようになるので、一時的にアトピーがよくなる人もいます。そのまま治ってしまう(正確に言えば、ほとんど症状が出なくなってしまう)人もいますが、大人になっても治らないケースでは、アトピーもちょっと頑固になっていると考えたほうがいいでしょう。思春期を過ぎてしまうと、一般的に皮膚も再び乾燥気味になるため、かゆみも感じやすく、皮膚の炎症が悪化する条件がそろってくるのです。ダニやハウスダスト、花粉に加え、ストレスで悪化しやすいことも成人型アトピーの特徴です。注意してほしいのは、子どものころにアトピーの治療をした経験のある人のなかには、小児科にかかっていた人も多いということです。小児科と皮膚科とでは、薬の使い方などがいくらか違う場合があるうえ、昔の治療方針と変わってきているため、患者さんが混乱することがあるのです。また、この数年だけでもアトピーの治療法や薬の効果は格段に進歩しています。古い治療の考え方にしばられて、悪化させることのないようにしてほしいと思います。

 子供のアトピー性皮膚炎の特徴

かゆみをともなう病気なので、赤ちゃんや幼児はどうしても顔をこすったり引っかいたりせずにはいられません。やがて顔の皮膚は滲出液(しんしゅつえき)でジクジクするようになり、黄色いかさぶたで覆われてしまうようになります。耳たぶや耳のつけ根部分が切れて、血がにじむ「耳切れ」も子供のアトピー性皮膚炎の特徴のひとつです。体や手足の湿疹は乾燥してカサカサしやすく、体全体が白っぽく粉を吹いたように見えることもあります。近年では、アトピー性皮膚炎に酷似した『脂漏性湿疹』が引き金となって潜在下にあったアトピー性皮膚炎が誘発されると考える医者も増えています。

 大人のアトピー性皮膚炎の特徴

アトピー性皮膚炎は、かゆい湿疹がいろいろなところにあらわれます。それも人によって、季節によって、体調や生活のしかたによってあらわれ方が異なります。大人の症状で特徴的なのは、首から上に症状が出やすいことです。人目につくところだけに、つらい思いをする人が少なくありません。つい触ったり、こすったりすることも多いため、本来の症状のほかに物理的あるいは化学的刺激も影響して強くあらわれるようです。

 顔・首の症状

皮膚のきめが粗くかさつきがちになり、フケのような物が落ちることがあります(落屑)。目もとあたりからほおにかけて赤みが強く、顔全体が赤黒くなることもあります。ひたいの皮膚は厚くかたくな。がちです。目の下にしわがよったり(デニエ兆候)、目の下の鼻側が黒っぼくなる(モルガン兆候)こともあります。目の周囲に湿疹が多い場合は、こすったりかいたりするせいもあるのでしょうか、眉毛の外側半分がすり切れてしまうこともあります。首は横じわに沿って症状が出やすく、きざ波状のしわができたり、赤黒く色素沈着が起こることがあります。色素沈着は、かゆみはない場合が多いですが、患者さんには気になる症状のひとつです。

 手足・全身の症状

ひじやひざの内側の柔らかい部分は、こすれやすく、汗やアカなどもたまりやすいため、症状が出やすいようです。はじめは水けのある湿疹ができますが、症状をくり返すうちにゴワゴワになる人が多く見られます。かきこわしてジタジクしている人もいます。わきの下から腕まわり、手首や足首にもかゆい湿疹ができる人が少なくありません。手のひらや指の腹に乾いた湿疹ができ、ひび割れする人もいます。「主婦湿疹」のような症状で、水仕事や最近は土いじりで症状が悪化している例も多く見られます。女性に多く、男性では美容師や理容師、花屋さん、調理店で洗い場に従事している人などにも見られます。何回も同じところをかいていると、脚や腕の部分に「痺疹(ようしん)」といって、ドーム状に盛り上がった大小のコリコリした、かゆいしこりができる人もいます。毛穴のところに小さな厚い盛り上がりができることもあります。「湿疹」は全身どこでもできます。かゆいため、ひっかいて中心部がジクジクしたり、かさぶたになることもあります。女性は乳頭やそのまわりに湿疹ができ、かさぶたができることもあります。ゴムやベルトの当たるウエストまわり、女性では生理用品のショーツやナプキンが当たる部分を中心に湿疹ができることもあります。

 アトピー性皮膚炎を呼び起こす要因が増えている

大人のアトピーが増えている原因のひとつとしては、以前に比べて、生活環境のなかでアレルギーを起こさせたり、敏感な皮膚を刺激するような物質が増えていることが考えられます。大気汚染、ダニやカビが繁殖しやすい気密性の高い建物、洗剤や化粧品、衣類、あるいは食品にまで添加される化学物質の増加、そして、いろいろな物を置く生活や身のまわりを飾る傾向、不規則を生活やストレスなどは、アトピー性皮膚炎と深くかかわっています。子どものころからアトピー性皮膚炎があった人では、成長するにつれて社会生活が広がると、さらにこうした要因に出会う機会が多くなり、よくなるチャンスを逃していくことがあります。大人になるほど生活習慣も変えにくくなり、さらに悪化させているのかもしれません。子どものころには症状がなかったり、あるいは軽かった人でも、いろいろな要因が積み重なって限度を超えると、それまで潜んでいたアトピー体質が呼び覚まされて、発症してしまうことがあります。なかには、ひとり暮らしをはじめたとたんに症状が出る人もいます。その原因には建物にアレルギーの要因があることもあれば、ひとり暮らしで食生活などが乱れたりストレスが多くなったりしたのかもしれません。ともあれ、アトピー性皮膚炎を起こす原因は年とともに増えてきている印象があります。

ページの上へ