アトピー性皮膚炎治療マニュアル

 アトピー性皮膚炎と睡眠

 かいてもいいから夜は眠ろう

睡眠

周囲がかくなと言わなくなると、本人は「何とかかかずに頑張ろう」と思う。この場合でも、日中はかかずにガマンできるが、夜間睡眠中のか破抑制は困難である。夜間は無意識のうちにかいてしまうので、「意識があればかかないであろう」と思い、夜間眠らずにかかないように頑張る人がいる。夜間に眠らないのは2つの意味でよくない。ひとつは、人間の睡眠覚醒リズムを崩すことによって皮疹の悪化をもたらすことである。もうひとつは、眠らずにかかないで頑張った翌日の睡眠では、それまでの蓄積されたか破欲求が突然爆発し、短時間のうちに激しくかき、かえって、大きな傷ができてしまうことである。皮膚の防御機能から考えれば、短時間に激しくより長時間にゆっくりとかくほうが皮膚はあまり悪くならない。だから、夜は、かいてもいいから眠るほうがよいでしょう。眠るために睡眠薬を使うことについて、次のことは知っておく必要がある。ハルシオンやマイスリーなどを使用すると、その他の睡眠薬でも大同小異であるが、睡眠中のか掻(かいは)行動にまったく気づかず、よく眠れたが激しくかいてしまって強いか破痕のできることがかなりあります。従って、睡眠薬の使用については慎重であるべきでしょう。すなわち、服薬翌日の皮疹の状態を前日と比べて、悪化していなければ継続て服用してもよいが、悪化していれば中止すべきです。

 寝つけないときは、抗ヒスタミン薬を飲んで眠るのもよい

もちろん、爪は短く切って、かいても傷つきにくいようにしておくことが大切です。かゆくてたまらないという人は、背中などでも、手が届く範囲だけ混疹が悪化していることがあります。温まるとかゆくなりますから、入浴はぬるめの湯にして、暖房も低めに設定しましょう。入浴後はほてりをしずめてから、かゆみ止めか抗炎症薬を塗ります。暖房は温風が直接当たらないようにするとよいでしょう。夜、ふとんの中で温まってくると、かゆくなり眠れなくなることもあります。かゆみに効く抗ヒスタミン作用のある薬は、飲むと眠くなりやすいのでこちらを処方してもらうとよいでしょう。私は市販薬で安価のレスタミンコーア糖衣錠を飲んでいます。

 脳の睡眠中枢

脳には覚醒中枢(目覚めているように指示する脳の部分)と睡眠中枢(眠るように指示する脳の部分)があり、この2つの中枢のバランスで昼は目覚め、夜は眠るという睡眠のリズムが形成される。一般的に人にはそれぞれに決まった睡眠時間がある。その時間は5~9時間と幅が広い。だから、睡眠時間の長さだけで不眠であるかどうかの判断をしないほうがよいでしょう。かゆみのある患者の場合、かゆみがチクチクとして覚醒中枢を刺激し、脳が興奮し、緊張するために眠れなくなる。この場合、不眠への対策としてはかゆみを抑えることが一番重要。しかし、必要最小限は眠っていることを伝えることができれば、誤って「自分は眠っていない」と思い、その不安や睡眠不足によるストレスで興奮し、眠れない状態ことは避けることができる。

 よくなった状態を体験することが大切

「アトピー性皮膚炎は、アトピーの素因があり、体質的に皮膚が弱いのだから、どんなに努力しても病気を治すことはできない。薬でよくなっても、また元に戻るだけ」こう悲観してあきらめている人はいないでしょうか。たしかにアトピー性皮膚炎の素因は捨てることができませんし、バリア機能が低めの皮膚とは、一生つき合わなければなりません。しかし、近視の人は裸眼ではよくならない視力を、眼鏡で矯正して日常生活をほぼ支障なく過ごしています。高血庄の患者さんは薬を飲んで血圧を正常化させています。アトピー性皮膚炎も同じです。体質的な素因があっても、薬で皮膚の症状を抑えたり、スキンケアなどで皮膚のバリア機能を補えば、皮膚はよい状態を保つことができるのです。根本的な部分が変わらず、悪くなる可能性があっても、現時点で表に出た症状がおさまり、かゆみなどの症状がなくなっている状態を寛解(かんかい)といいます。この寛解をずっと続けることができれば、アトピー性皮膚炎は治ったとはいえないまでも、よくなったといえるでしょう。

 よくなった状態を体験して再発したときの対処法を身につけよう

むしろ、「体質的なものは別として、皮膚の炎症は治すことができる」という具合に、前向きに考えてはいかがでしょう。たとえば、アトピー性皮膚炎でなくても、化粧品にかぶれやすい人はいます。この人たちは、かぶれやすい体質が治らないと悲観することはまずありません。かぶれやすいのだから化粧品の選び方、使い方に気を配るといったことで、特別な病気とは思わないのです。アトピー性皮膚炎の人も、自分は病気だと思って消極的になるのではなく、皮膚がふつうの人より敏感だから、その分、気をつけようという気持ちで対処してはいかがでしょう。アトピー性皮膚炎というものを客観的にとらえ、「ときには悪くなることもある」ということを念頭におき、そのときの対処法を正しく実行できさえすれば、恐れることはありません。そのためにも、皮膚炎の症状が出ている人は、一度徹底的に治療して皮膚の状態をよくしましょう。その方法はむずかしくありません。信頼できる医師の指導をしっかり守ればよいのです。よくなった状態を体験できると、なんらかの理由で再び湿疹ができたときにも、適切に対処することができます。ぜひ、よい状態を体験してください。

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