アトピー性皮膚炎治療マニュアル

 アトピー性皮膚炎とどう向き合う?

・「アトビー性皮膚炎」は慢性疾患。治療中も症状の変化が起こりやすい。
・標準治療で症状を抑え、通常の生活を送ることができるようにする。
・薬の使い方などの疑問は、皮膚科専門医に相談して解決する。

 皮膚の状態

アトピー性皮膚炎のある人の皮膚

正常な皮膚は水分をたっぷり含んでしっとりしています。いちばん表面にある角質層の細胞がきれいに並んで、そのすき間を水分とセラミドを主体とした脂質が満たしています。皮膚の最も外側は、角質層で覆われています。健康な皮膚の角質層には、多くの細胞が層状に並び、皮膚を守る「バリア膜」をつくっています。このバリア膜が、体内の水分が外に逃げるのを防ぎ、皮膚の潤いを保っています。同時に、さまざまな刺激物が皮膚の内部に侵入するのを防いでいます。アトピー性皮膚炎がある場合、遺伝的な体質(アトピー素因)によって、皮膚のバリア膜が乱れて皮膚が乾燥した状態になっており、汗やほこりなどのさまざまな刺激物が入りやすく、炎症が起こりやすくなっています。このように、バリア膜が皮膚を守る機能(バリア機能)が弱くなっているために、湿疹ができて、強いかゆみが生じるのです。残念ながら、現在の医療では、このような体質を根本的に変えることはできません。

 悪化因子

アトピー性皮膚炎は、「ストレス」「気温」「湿度」「体調不良」「発汗」「衣服」「化粧品」「食物アレルギー」など、さまざまな要因によって悪化することがあります。なかでも、職場や学校、家族などの人間関係から生じるストレスによって悪化する例がよく見られます。

 標準治療

アトピー性皮膚炎の治療では、科学的に有効性が証明された標準治療を行うことが重要です。標準治療では、次の3つが柱となります。
●スキンケア
まず、入浴して肌についた刺激物を洗い流します。そしてすぐに保湿外用薬を使って皮膚の乾燥を防ぎます。このようなスキンケアで皮膚を清潔で潤いのある状態に保ち続けることが、症状の改善につながります。スキンケアには炎症が再び起こるのを防ぐ効果もあるので、症状がよくなっても継続することが大切です。
●薬物療法
中心となる薬はステロイド外用薬で、炎症や湿疹があるところに使用します。
●悪化因子の除去
取り除くことができる悪化因子は、できる範囲で取り除くようにします。

 治療のゴールとは

アトピー性皮膚炎の場合、治療のゴールは「完治」ではなく、「時に症状が出ることはあっても、標準治療で症状を抑え、アトピー性皮膚炎のない人と同じように社会生活を送る」ことです。「根本的に治すことができない」「体質は改善できない」などと説くと、ショックを受けるかもしれません。しかし実際のところ、多くの患者さんが、標準治療を継続することで、日常生活に影響しない程度に症状を抑えています。「完治」を目指すのではなく、"病気とうまく付き合っていく"という姿勢が大切です。

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