アトピー性皮膚炎治療マニュアル

 アトピーの治療

初診で検査をする医療機関もあるかと思いますが私はむしろ数回通院してもらいながら、薬の治療効果と皮膚の状態、患者さんのお話などを聞いたうえで、必要に応じて検査をするのが望ましいという考えです。というのも、アトピーが重症だからといって全員がIgE(免疫グロブリンE)抗体値が上昇しているとは限らないし、パッチテストやスクラッチテストも、その人の身のまわりのものすべてを調べることはできないからです。何がその患者さんの症状を悪化させているか・・。生活環境や食べ物については、初診よりもむしろ2回目以降の診察のときにくわしく聞かれることが多いかもしれません。まず、今出ている症状に合うぬり薬をきちんとぬり、内服薬を飲み、正しいスキンケアをしたうえで、考えられる悪化要因をできる限り排除していきます。それでもよくならない場合や急に悪くなった場合は、ペットや花粉、化粧品など、悪化させた犯人の目星をつけてから検査をします。さらに、どうやら飼っているネコが犯人らしい、あるいは新しい職場の上司がどうしても合わなくてストレスが増した、などと原因がわかったとしても、それらを排除できない場合もたくさんあります。「せめて、ネコとは一緒の部屋で寝ないように」と言っても、飼うのをやめるわけにはいかないでしょう。仕事に関しても、うまくやっていく策を見いだす方向で治療をします。2回目の診察でよくあるやり取りは、「この前いただいた軟膏がまだ残っています」というケース。前回の診察のときの説明通りに毎日ぬっていれば、薬は使い切っているはずなのです。それなのに、たっぷり薬が残っているということは、つまり「ぬる量が足りなかった」のです。薬による治療については、アトピーの治療に使われるステロイドのぬり薬は、決められた量をきちんとぬり続けないと効果が出ないばかりか、皮膚炎がじわじわと続くことによって、かえって皮膚が黒くなったり厚ぼったくなったりしてきます。これをステロイドの弊害と思っている人が多いのですが、ぬり方が足りなかっただけです。そんな誤解による悪化を防ぐためにも、医師と患者さんとのコミュニケーションはとても大切だと思います。

 アトピー性皮膚炎に関する一般的な検査

血液検査

・血液検査血液lgE抗体やダニ特異lgE抗体、末梢血好酸球などの値を調べます。
・パッチテスト皮膚炎の悪化原因と疑われる物質をしみこませたシールを皮膚にはりつけ、48時間置いて反応の有無を見ます。アトピーよりむしろ接触皮膚炎を疑ったときに行います。
・スクラッチテスト皮膚炎の悪化原因と疑われる物質を溶かした液体を皮膚にたらし、針で皮膚を傷つけて内部に浸透させて反応の有無を見ます。実際には、ほとんど行いません。

 外用薬と内服薬中心の一般的な治療法

ステロイド外用薬が中心
一般的に、皮膚科でも小児科でもアトピー性皮膚炎の治療には外用薬(塗り薬)内服薬(飲み薬)が使われます。外用薬としては、ステロイドが入っているステロイド外用薬ステロイドが含まれない非ステロイド系消炎外用薬、皮膚の乾燥を防ぐ保湿薬、皮膚を外部の刺激から守る保護薬が使われます。ちなみにステロイド外用薬には、軟膏、クリーム、ローションタイプがあり、ジクジクした湿疹には軟膏を用い、乾いた湿疹には軟膏かクリームを、頭髪のある部分にはローションを用いるのが一般的です。

一方、内服薬は、抗ヒスタミン薬と抗アレルギー薬が主に使われます。ところで、アトピー性皮膚炎の治療に欠かせないステロイド外用薬は、近年、その副作用がクローズアップされ、乳幼児の患者のお母さん方は大いに心配され、それこそステロイドという言葉に対して過剰なアレルギー反応を起こすようになりました。心配の理由は、ステロイドは一時的に良くなりますが、また再発して根本的に治るものではないことを体験しているからです。医学的に見て、ステロイド外用薬ほど炎症を抑えるために効果的な薬はありません。が、それのみを安心して塗り続けることは、副作用が起きることがあり、問題です。乳幼児のお母さんの中にも、ステロイド剤に対して強い拒否反応を示す方がおられます。そのような方たちには、非ステロイド外用薬を試していただき、どうしてもだめな場合のみステロイドを使っていただきます。その後、良くなったら、また非ステロイドに戻るように工夫します。大部分の方は、このやり方でステロイドを使わないか、使っても少量にすることができます。

 アトピー性皮膚炎の診断基準

ここでアトピー性疾患について、あらためてまとめておきたいと思います。まずアトピーという言葉はすでに述べましたように、遺伝的体質を持っている人に起こりやすい異常かつ不思議な過敏反応のことを意味します。要するに、アレルギーの病気の総称をアトピー性疾患と呼び、症状が起きてくる部位によってさまざまな病名に分類されます。たとえば、この反応が空気の通り道である気管で起きれば気管支ぜんそくとなり鼻で起きればアレルギー性鼻炎や花粉症、皮空起きればじんま疹やアトピー性皮膚炎になるというわけで、アトピー性疾患は、全身のどこにでも起こり得る病気だということです。これらのうち、気管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎がアレルギー三大病とされ、患者さんはどの部位に最も顕著な症状が出ているかによってそれぞれの病名がつけられることになります。患者さんによっては、これらの症状が単独に起きている人、時には同じ人に二つ三つと重なって起きている人、さらに三大病以外のアレルギー症状(アレルギー性結膜炎、薬物アレルギー、寒冷じんま疹など)を併せ持つ人など、症状の出方にはさまざまなケースがあります。また、皮膚、気管、鼻などに同じアレルゲン(原因物質)が作用しても、人によって現れる症状が異なることが多いのもアレルギー疾患の特徴で、このように複雑な側面を持っているために現代医学でも決定的な治療法を解明するには至っていません。いずれにしてもこの中でも最も治りにくいのがアトピー性皮膚炎であり、治りにくことに加え、近年ますます低年齢化していることが問題視され、アトピー性皮膚炎はまさにアトピー性疾患の代名詞のように考えられているわけです。このように、その症状が実にさまざまであることから、アトピー性皮膚炎の診断の基準を医学的に定義することは、大変に難しい実情なのですが、世界の医学界では便宜的に「ハニフィンとライカの診断基準」を国際的に通用するものとしています。この定義によると、アトピー性皮膚炎と診断される基本項目は次のように定められています。

*皮膚にかゆみがある。
*以下に記すような典型的な皮膚症状とその分布の仕方をする。
典型的な症状と分布…皮膚がカサカサして赤くなり、盛り上がる。子供では顔、腕、足に起こりやすい。大人では腕の内側、膝のうしろが厚く盛り上がってカサカサ、ゴワゴワした状態(苔癖化)になることが多い。
*一時的でなく、慢性的な経過をたどる。一時的に良くなっても、再発する。
*過去にアレルギー・アトピー疾患の病気(ぜんそく、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎など)にかかったことがある。または家族にこのような病気の人がいる。
アトピー性皮膚炎であるとの診断は、以上の4項目のうち3項目を満たし、その上に、血液検査の結果、IgEの数値が高いこと、即時型皮膚反応(抗原に触れてから数秒から数十分のうちに現れる反応)があること、年少時に発症を経験していることなど、アトピーを疑わせる細かい条件が3項目以上ある場合とされています。一方、日本の医学界で一般的に行われている診断基準は、およそ次の通りです。
*皮膚のカサカサ、ゴワゴワ、赤く盛り上がるなど特有な皮膚症状があること。
*かゆみがあること。
*症状が始まってから半年以上経過していること。
*過去にアレルギー・アトピーになったことがあること。
*血液検査でIgE値が陽性であること。
これらの項目をすべて満たすものを「完全型アトピー性皮膚炎」、それ以外を「不完全型アトピー性皮膚炎」と大きく分類する考え方もあります。

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