アトピー性皮膚炎治療マニュアル

 アレルギー反応を起こす物質が増えている

 暖房完備、気密性の高い環境でダニなどが繁殖しやすい

ダニ

アトピー性皮膚炎を起こすアレルゲンには、大きく分けて「環境アレルゲン」と「食物アレルゲン」があります。環境アレルゲンで多いのは、コナヒョウヒダニやヤケヒョウヒダニといったごく小さなダニです。これらは、どこの家にも必ずといっていいほどいます。人間や動物のフケやアカ、自分のフンなどをえさにして増えていきます。アトピー性皮膚炎では、フンや死骸のかけらが皮膚にくっつき、毛穴や表皮細胞の小さなすきまから入り込んでアレルギー反応を起こすことが多いのではないかといわれています。皮膚の表面が荒れているほど、アレルゲンは侵入しやすく、炎症を悪化させやすいという悪循環になります。ダニは高塩多湿の環境で繁殖しやすいため、暖房完備、気密性の高いコンクリート性の建物は、ダニの絶好のすみかとなってしまいます。以前よりアトピー性皮膚炎が増えている背景にはそうした環境の変化も大きく影響していると考えられます。家庭内の物が増えたことも大きな要因です。ほこりはダニのすみかですし、枕やクッション、ソファ、ふかふかしたじゅうたん、ぬいぐるみなどにも、ダニはひそんでいます。

 ハウスダストはダニやカどの温床

カビ類や花粉もアレルギーを起こしやすい物質です。カビは通気性のよくない環境で繁殖しやすいですし、花粉は舗装道路の普及で行き場がなくなっていることなどもあって、以前よりもアレルゲンになりやすいといわれます。ペットの毛やハウスダスト(家のほこり)には、こうしたアレルゲンが入りまじっています。アトピー性皮膚炎の人のアレルギーチェックをすると、ダニやハウスダストに陽性を示す人の割合が非常に高くなっています。

 大人の食物アレルギーは少ない

食物アレルギーでは、日本人の場合、卵、大豆、牛乳が三大アレルゲンといわれています。そばなどの穀類もあげられています。こちらも特定の食品を長く大量に食べていることが、アトピー性皮膚炎の発症と関係しているようです。実際に、米国ではオレンジや牛肉がおもなアレルゲンだそうです。こうした食物アレルギーは、消化器が十分に発達していない乳幼児に多く見られ、成長につれて消化管の免疫機構が発達してくると少なくなります。子どものときに卵を食べられなかった人が、大人になって食べられるのはそのよい例です。ただし、なかにはそばアレルギーのように、そば粉の入ったものを少し食べただけで湿疹が出たり、ショック症状を起こす人もまれにはいますから、あなどれません。しかし、一般的には、大人の食物アレルギーはまれで、とくに大人になってからアトピー性皮膚炎になった人は、食物アレルギーそのものが起こりにくいようです。

 アレルゲンは、ひとりでいくつも持つことがある

アレルゲンになる物質は人によって異なります。また、同じ人がいくつもの物質に対して反応することもあります。アレルゲンは、ときとともに変わることも少なくありません。スギ花粉によるアレルギーはその典型的な例です。つまり、幼いころには杉の木の下で遊んでいても鼻炎も結膜炎も起こさなかった人が、長い間いろいろなアレルゲンにさらされて敏感になっていたところへ、スギ花粉と接する機会が増えていくと、ある年、突然スギ花粉症になってしまうのです。なお、アレルゲンを突き止める特異lgE抗体検査で陽性反応を示すと、それで必ずアトピー性皮膚炎を起こすかというと、そうとはかぎりません。たとえば、体調がよいときなどは、何の反応も示さないことが多いことも知っておいてください。

 皮膚炎が起こる要因は、アレルゲンだけではない

ここまででアトピー性皮膚炎を起こす要因には、アレルギー的側面と皮膚そのものが関わる非アレルギー的側面があることはおわかりいただけたことでしょう。アレルギーを起こすアレルゲンについては以前で述べましたが、アトピー性皮膚炎を起こす要因としては、非アレルギー的側面も考えなければなりません。アレルゲンだけを避けても、皮膚に起こる症状を防いだり改善することはできません。どんなに効きめの高い薬をつけて症状を抑えても、それは一時的なことで、次の皮膚炎の発症を抑えることにはなりません。敏感な皮膚を炎症から守るには、非アレルギー的な面でのさまざまな刺激も避ける必要があります。

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