アトピー性皮膚炎治療マニュアル

 生理とストレスのアトピー

 生理のサイクルとアトピー

女性の患者さんの場合、「生理の前になるとアトピーが悪化する」というケースがあります。女性の排卵と月経のサイクルは、脳下垂体から分泌される2種類の女性ホルモンがつかさどっています。ニキビはホルモン分泌の影響を強く受けて悪化しますが、アトピーの場合はホルモンの影響ではなく、生理そのものの身体的ストレスによって悪化すると考えられます。生理中は気分もブルーなのに、アトピーも悪化したら、余計にブルーな気持ち。わかっていれば主治医と相談して、お休みしていたステロイド外用薬と抗アレルギー薬をその時期だけ使うようにするなど、あらかじめ対策を立てておくと安心です。また、「生理が始まってから悪化する」という場合は、生理用ナプキンによる「接触皮膚炎」であることも多いのです。最近のナプキンの素材はとても進化していて、皮膚に当たる面がいつもサラサラしているように工夫されています。しかし、なかには表面がフィルム状になっていて、肌に張りつくような素材もあるようです。歩くと擦れるので、もともと肌の弱いアトピーの患者さんはすぐにかぶれを起こしてかゆくなったり、まわりの皮膚に炎症が起きたりします。ナプキンは表面が不織布の柔らかいタイプを選び、こまめに交換して外陰部をできるだけ清潔に保ちましょう。それでも、生理用ナプキンは、生理中しか使わないのでまだいいのですが、若い女性が愛用しているという「おりもの用の薄型ナプキン」は要注意です。こちらは生理中と違って経血で汚れないため、それほどひんばんに交換しないのではないでしょうか。そうすると、デリケートな部分の皮膚が、365日つねにナプキンとこすれているために、やはり接触皮膚炎を起こしてしまうのです。婦人科の医師に聞いても、やはり皮膚の敏感なアトピーの女性は「ナプキンかぶれ」が悪化することが多いそうです。ナプキン類は、少しでもかゆみや違和感を感じたら、すぐに肌にやさしいタイプに替えて、炎症はひどくならないうちに医師に相談してください。

 ストレスとアトピー

ストレス

薬での治療がうまくいっていたのに、いきなりぐっと悪くなることがあります。「最近、職場の上司が替わったがうまくいかない」とか「進路のことで親とケンカをした」など、精神的な問題が生じて悪化したと考えられるケースがあります。アトピーの症状のなかでも、特にゴツゴツしたこぶ状のしこりができる「結節性痺疹」は、かなり心理的ストレスが関与していると考えられています。人間はストレスなしでは生きていけません。しかし、適度なストレスはプラスに働くのですが、過剰になると皮膚にも悪影響をおよぼします。その時期にしっかり治療をして抑えるようにしないと、アトピーの悪化がきっかけで不登校や引きこもりになっていくことさえあります。「心とからだ」、ことに「心と皮膚」とは、互いに深く関わりあっています。心の葛藤と皮膚の症状のどちらがどちらの原因か、という関係性が重要なのではなく、ふたつの問題が同時に起きている、と考えるべきです。たとえば、「会社に行きたくない」「アトピーの炎症が悪化している」というふたつの問題が、ひとりの患者さんに起きているとします。会社に行きたくないから症状が悪化するのか、症状が悪化しているから会社に行きたくないのか、「鶏と卵」の問題と同じで堂々巡りになり、答えは出ません。それよりも、私はまず皮膚を治すことを考えて実行します。そもそも、ストレスの原因がわかったところで、除去できない場合が多いからです。しかし、皮膚を治すと心も治っていくケースは多いのです。皮膚がきれいになると自信がついて、明るくなって立ち直れるからでしょう。不安を感じる度合を調べたあるテスト調査では、アトピーの人は不安度の数値が高く、さらに不安度が高くなるほど、IgE値も高くなることもわかりました。アトピーの患者さんは、まじめで完ぺき主義の人が多く、少しのストレスでも不安や抑うつが強まる傾向があります。皮膚科でも、必要と判断すれば弱い抗うつ薬や抗不安薬を処方することもありますし、精神科とタイアップしてカウンセリングを勧められる場合もあります。精神科、というと抵抗を感じるかもしれませんが、今では「精神皮膚科学」などという分野もあって、文字通り皮膚と心はお友だちなのです。心の専門家に相談することによって、ストレスの意外な解消法をアドバイスしてもらえたり、自分では意識しないプレッシャーに気づかされたりするかもしれません。

 こすったり、かいたり・・・。まさつもバリア機構をこわす

表面のバリア機構が弱くなっている皮膚では、まさつは最大の物理的刺激です。ストレスなどでかゆいとつい皮膚をさすったり、かいたりするなど、かゆみに代わる刺激で気持ちを紛らわそうとしがちです。しかし、こすったりかいたり、まさつを与えれば、皮膚のバリア機構はさらにこわされて皮膚炎を悪化させます。アトピー性皮膚炎の人のなかには、かくことがくせになっていて、それほどかゆくなくても、顔や肩のあたりに手がふれている人が少なくありません。ひっかいて傷を作ると、細菌感染などを起こしやすくなります。また、かさぶたを作ってはかきこわしていると、それだけで皮膚はかたく厚くなります。

 化学物質、大気汚染物賢誘因に

アレルギー反応を引き起こす要因として、煤煙や排気ガスなどに含まれる大気汚染物質やさまざまな化学物質、たばこの煙などもひと役買っています。シックハウス症候群など、化学物質過敏症を起こすことがある住居用塗料のトルエンやホルムアルデヒド、繊維や布に施される加エ薬品なども、アレルギー反応の誘因になっている可能性があります。

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